Category: blog - 2011.11.01

ACADIA Conference

©AA EMTECH

先日カナダのバンフで行われたデジタルアーキテクチャーの国際学会ACADIA2011にプレゼンターとして参加してきた。

80年代初頭から続くACADIAはこの分野の国際学会では最も古いもののひとつで、CAD黎明期から建築デザインとコンピューテションについての研究を サポートしてきた。当時、CADはまだデザインコンピューティングと呼ばれていた時代で、現AutodeskのRobert Aish、FormZのChris Yessios, BIMの生みの親として知られるChuck Eastmanなどの開発者は皆このコミュニティーを通じて繋がってきた。また80年代といえば、ソフトウェアという概念が生まれ、コンピューターが専門 化した計算機から多様な用途を持ったツールへと進化を遂げた時代でもある。Machintoshが84年に発売され、Windows1.0は85年に発売 されている。社会全体がこの新しい機械に急速に馴染み始め、西海岸のソフトウェアの開発者達にとってはまさにフロンティアが開けた時代でもあったのだろ う。

それから30年後の2011年。ジョブスの訃報によって、コンピューテーションの第一世代とって時代の一つの終止符が打たれたようにも感じる。多くの技術 は飛躍的に進化したが、建築そしてコンピューテーションの外の世界に目を向けると、いまだに解決していない問題は80年代からまったく変わっていないこと に気がつく。エネルギー問題、温暖化、生物種の絶滅、戦争、飢餓、政治経済の不信、富と正義の不平等、教育/文化/芸術への不理解といった問題は今も毎日 のようにメディアを賑わせている。そんな中、僕たちの世代はどのような未来を描くのだろうか。

今回のテーマとなった’Integration through Computation’について、オーガナイザーの一人であるカルガリー大学のBranko Kolarevic は過去30年のこの分野での業績を総括しながら、それぞれのフィールドで培われてきたの’知の統合’が未来に向けての新しい原動力になると位置づけてい た。それは従来の建築分野に縛られることなく生物学、素材工学、物理学、環境学など専門外からの研究を取り入れながら社会に還元していくトータルなものづ くりに向かうことを意味している。

シュトゥッツガルト大学 Achim Mengesユニットによるパビリオン
© A. Lautenschlager

基調講演となったAA, EMTECHのMichael Weinstock*やtransLABのMarcos Novak**によって都市レベルでの知の統合が理論的なスケールで語られるとともに、DIY、Hacking、ソフトウェアのプラグインの開発な ど***、ローカルで具体的な活動についても多くの注目が集まった。

改めて感じたことは、デジタルメディアのスケール感の希薄さは、専門分野の統合を推進する強力なアドバンテージになっているということだ。実際の物質(建造物や都市)としてリアリティーをもつ前の段階では、理論やシステムは拡大、縮小、反復をすることで様々なスケールに対応することができ る。逆に言うと、まったく別のスケールで発想された議論が、別の規模のプロジェクトで応用できる可能性が広がるということでもある。これによって、今まで 以上に異なった分野からの応用研究が盛んに行われるようになった。

またデジタルファブリケーションの利用によって、手のひらに乗る3次元模型から、等身大の空間までプロトタイプの制作が容易になった。学生によって提案さ れた建築模型を1:1の大きさまで拡大することで、建築のもつ物質的な説得力は現実味を増し、閉じられた学内の批評の枠からより多方面の人の参加を促すよ うになった。同時に、従来アカデミックとプロフェッショナルの間に存在した垣根も解消される方向に向かっている。つまりどちらの場合も、スケール(さらに言えば次元)の横断が可能になったことによって、専門分野の異種交配が自然に促されるようになったといえるだろう。それは作り手のものづくりの姿勢にも徐々に影響を与えている。 ユニバーサルに思えるコンピューテーションの世界にも地域性は現れるもので、個人的には初めて訪れるこの北米の学会ではヨーロッパとは異なる文脈の議論が盛んに行われていたことが印象的だった。

©Marcos Novak / transLAB

*初日の基調講演となったAA, EMTECHのMichael Weinstockは人口爆発を契機に今後30年間に世界で生まれる都市の数は2000を超えるだろうというリサーチを紹介した。これは今現役で活動する 30代の建築家がその生涯で直面する劇的な社会の変化を明示している。20世紀の資本主義が作り出した都市から我々が何を学び、今どれほど有効な都市戦略 を持ち得ているのかを分析をすることが現在の最重要課題であると指摘した。彼はそのリサーチの中で交通、水、エネルギー、情報、ゴミ処理、緑地、憩いの空 間を都市インフラの7つのシステムと定義し、それらの関係性をダイナミックなネットワークとして構築する事が必要だと解説した。マテリアルシステムリサー チを中心としていたEMTECHの方向性が近年徐々に都市のスケールへと拡大しつつあることは、彼の問題意識と重なっている。

**2日目の基調講演に立ったtransLABのMarcos Novakは’Information obesity’、つまり情報が豊潤になった時代に我々の’栄養バランス’は崩れ、逆に怠惰がもたらす肥満という弊害を生み出していると警鐘を鳴らした。 彼は古代文明の持っていた人間と自然の関係性を取り戻すことが、ひとつの処方箋になると考え、ギリシャ神話と日本の神道に見られる自然観、そしてそこに物 語としての神を見るまなざしに共通性があると説明した。80年代盛んにサイバースペースについて語り、演劇、映像、彫刻作品を通じて常に斬新な空間と人間 のあり方を提案し続けてきた彼が今構想する自然と人間との関係性は、ユートピアの世界に収斂していくものではなく、さまざまな技術と芸術の総合体として現 状に抗する共同体Allopolis (Allo-他の、また別の polis-都市)を形成することに繋がっていくようだ。

***カリフォルニアの Dr. Garnet Hertzは マッドサイエンティスト&一人ガレージバンドを体現する奇才で、ゴキブリの脳をICチップに、運動能力をモーターの駆動体に直接利用したロボット Roachbotを紹介した。また違法寸前のプロジェクトAutoRunでは、ゲームセンターのレーシングカーを改造した車で実際の道路を走りながらリア ルタイムキャプチャーした映像を8bitの解像度にダウングレードし、映ったスクリーンを見ながら走り抜けるパフォーマンスを紹介。自らの研究を Augumented Reality(拡張現実)に対する、Obfscated Reality(錯乱現実)という言葉で解説し大いに反響を得た。